遺産分割協議とは?進め方と話し合いの基本を解説
- すみれ大橋行政書士事務所
- 4月17日
- 読了時間: 15分

▶︎1. 遺産分割協議とは?基本的な理解

1.1 遺産分割協議の定義と目的
遺産分割協議とは、相続が発生したあとに、相続人全員で遺産をどのように分けるかを話し合う場のことです。被相続人(亡くなった方)の財産には、不動産や預貯金、株式、家財などさまざまな種類があります。こうした財産をどの相続人がどのように取得するかを明確にするために行われます。
法定相続分という基準はありますが、遺産分割協議を通じて自由に配分の内容を決められるのが大きな特徴です。
たとえば、次のようなケースが考えられます。
被相続人と同居していた家族が住み慣れた家にそのまま住み続けられるよう、不動産を取得
高齢の相続人に金銭を多めに配分し、生活資金を確保
家業を継ぐ相続人が事業用資産を引き継ぐ など
相続人間の事情や希望を考慮して柔軟に分けるためには、この協議が欠かせません。
1.2 遺産分割協議が必要となるケース
遺産分割協議は、次のような場面で必須になります。
遺言書がなく、法定相続だけでは不都合がある場合
遺言書はあっても、一部の財産について記載がない場合
遺言内容と現実的な生活状況が合わない場合
こうした場合、法定相続分だけで分けると不公平感が出やすく、争いの火種になることも。
だからこそ、協議によって納得のいく配分を行うことが大切なんです。
よくある失敗例と注意点
遺産分割協議をめぐるトラブルは少なくありません。よくあるパターンを見てみましょう。
相続人全員の参加がなかった
→一人でも参加していないと、協議自体が無効になります。
口頭だけで話をまとめてしまった
→書面(遺産分割協議書)に残しておかないと、後で「そんな話は聞いてない」となる恐れがあります。
財産の全体像を把握しないまま分割を決めた
→のちに隠れた資産や借金が見つかり、再度協議が必要になることも。
これらの失敗を防ぐには、以下のような準備が重要です。
相続人の調査をしっかり行う(戸籍収集)
遺産の全容を明らかにする(財産目録の作成)
専門家に早めに相談し、手順や書類を確認しておく
よくある具体的なケース
たとえば、親が急に亡くなり、相続手続きを急いで進めなければいけなくなったとします。 仕事や家事で忙しい中、「とりあえず分かっている口座だけ相続しよう」と動いてしまうと、あとから他の財産や借金が見つかってトラブルになることもあります。
こうした事態を防ぐには、最初に「何を、誰と、どう分けるか」を明確にすることが大事です。 遺産分割協議は時間がかかることもありますが、丁寧に進めることが将来の安心につながります。
▶︎2. 遺産分割協議の前準備

2.1 相続人の確定方法
遺産分割協議を始める前に、必ず行わなければならないのが相続人の確定です。
これを怠ると、協議のやり直しやトラブルに繋がる可能性があります。
相続人を調べる方法として、主に以下の手順を踏みます。
被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を集める
婚姻歴、認知した子、養子縁組の有無などを確認
相続人の現在の住所も調査
相続人の調査は想像以上に大変です。戸籍の記載は古い様式で読みづらく、手作業で追いかけていく必要があるため、1週間以上かかることも珍しくありません。
よくある失敗と対処法
戸籍を途中で集めるのをやめてしまう
→「亡くなった親の戸籍は1通だけで大丈夫」と思ってしまい、出生までのつながりが確認できないことがあります。
相続人の一部を見落とす
→認知された子どもや離婚歴のある配偶者との間の子など、把握していない相続人が存在するケースもあります。
連絡先不明の相続人がいる
→住所が不明な場合、所在調査や家庭裁判所を通じた特別代理人の選任が必要になります。
相続人を確実に確定することが、協議のスタート地点です。抜けがあると全てが無効になる恐れもあるので、慎重に進めましょう。
2.2 相続財産の調査と財産目録の作成
次に必要なのが、遺産の全体像を把握することです。これを怠ると、分ける対象が不明確になり、協議がスムーズに進みません。
財産の調査では、次のような情報を集めます。
不動産(登記簿謄本、固定資産税評価証明書)
預貯金(通帳、残高証明書)
株式や投資信託(証券口座)
車、骨董品、貴金属などの動産
借金やローン、保証債務
これらを一覧にまとめたものが「財産目録」です。後々のトラブル防止のためにも、金額や品目を明記しておくのがベストです。
ありがちな失敗例
財産の一部だけを調査して協議を始める
→後から生命保険や有価証券が見つかり、協議が振り出しに戻ることがあります。
借金や未払い税金を見落とす
→相続財産に債務が含まれていた場合、全員で引き受けることになるので要注意です。
目録の内容が曖昧
→「車1台」「株式多数」などと表記してしまうと、後で「どれのこと?」と揉める原因になります。
丁寧な財産目録があれば、協議は圧倒的にスムーズになります。作業は少し面倒ですが、正確にまとめる価値は大きいです。
2.3 遺言書の有無の確認とその影響
協議の前に、遺言書があるかどうかを必ず確認しましょう。あるかないかで、協議の進め方が大きく変わります。
遺言書がある場合、それが法的に有効な内容であれば、その指示が優先されます。つまり、遺産分割協議は不要になることもあります。
遺言書には主に3つの種類があります。
自筆証書遺言(自分で手書きしたもの)
公正証書遺言(公証人の立ち合いで作成)
秘密証書遺言(内容を秘密にできるが、あまり一般的ではない)
自筆証書遺言の場合は、家庭裁判所で「検認」という手続きが必要です。
この手続きを飛ばすと、相続登記や名義変更などに支障が出ます。
注意すべき点と対策
遺言書が家の中から出てくるが、開封してしまった
→開封は原則禁止されており、罰則がある場合もあります。
内容が不明瞭で解釈が分かれる
→「長男に多めに分けてほしい」など、曖昧な表現では紛争の火種に。
一部の財産しか書かれていない
→残りの財産については結局、協議が必要になるため、誤解しないことが大事です。
遺言書がある=すべてが決まっている、というわけではありません。 内容と効力を確認して、必要であれば協議を行う準備を整えておくと安心です。
▶︎3. 遺産分割協議の進め方

3.1 協議の開始と相続人全員の参加
遺産分割協議を始めるうえで、まず大前提になるのが「相続人全員が参加すること」です。 これは法律上の必須条件であり、1人でも欠けていた場合、その協議は無効になります。
相続人の中に、次のような状況の方がいると注意が必要です。
行方不明者:家庭裁判所で不在者財産管理人を立てる
未成年者:特別代理人の選任が必要
判断能力が不十分な方:成年後見人の関与が必要
これらの準備には1〜2か月かかることもあるため、早めの対応が大切です。
よくあるトラブル例と対策
「連絡がつかないから」と協議を進めてしまう
→相手の同意がないまま話し合いをしても、後から無効にされる可能性があります。
相続人と連絡を取る前に不動産を売却してしまった
→所有権が確定していない段階で処分するのは、法的にも大きなリスクです。
家族間で話し合って合意した気になっていた
→戸籍調査をしていなかったため、実は他にも相続人がいた…というケースもあります。
遺産分割協議は、相続人全員で進めるのがルール。相手が協力的でない場合でも、法的手続きを使って慎重に進める必要があります。
3.2 協議内容の決定と合意形成のポイント
協議が始まったら、次に必要なのは「何を誰が相続するか」という具体的な配分内容の決定です。
遺産の中身や相続人それぞれの希望を整理しながら、バランスの取れた合意を目指します。
主な話し合いのポイントは以下のとおりです。
誰が不動産を取得するのか
預貯金をどのように分けるか
共有にするか単独にするか
寄与分や特別受益をどう考慮するか
合意がまとまりにくい原因とその対処法
「法定相続分通り」にこだわる人がいる
→実情に即した柔軟な配分の方がトラブルを防ぎやすいことを丁寧に説明しましょう。
「不動産は欲しいけど現金もほしい」と主張がぶつかる
→代償分割(不動産をもらう代わりに他の相続人に現金を支払う)を活用する方法があります。
話し合いに感情が入ってまとまらない
→第三者(専門家)にファシリテートしてもらうと冷静に話が進むこともあります。
現実には、1回の話し合いで決まることは稀です。複数回にわたって協議を重ね、全員が納得できる形を探ることが大切です。
3.3 遺産分割協議書の作成と署名・押印
協議の内容がまとまったら、それを文書化するのが遺産分割協議書です。 この書類は今後の不動産登記や預金の名義変更、税務申告などで必要になる、非常に重要な公式書類です。
遺産分割協議書に記載すべき内容は次の通りです。
相続人全員の氏名と住所(印鑑証明書の情報と一致させる)
分割する財産の内容と取得者
協議の結果に全員が合意している旨の文言
署名と押印は必ず実印で行い、印鑑証明書も添付します。 相続人が複数いる場合は、それぞれが原本と同じ内容の協議書を持っておくのが理想的です。
作成時によくあるミスと防止策
財産の記載があいまい
→「〇〇銀行の口座」ではなく「〇〇銀行△△支店 普通1234567口座」と正確に記載しましょう。
1人でも署名・押印が漏れている
→協議書の効力がなくなるため、最後に全員分をしっかりチェックすることが大事です。
印鑑証明書が古い
→取得後3か月以内のものが必要な場面もあるので、タイミングに注意が必要です。
遺産分割協議書は、相続の証拠となる重要書類。書き方に不安がある場合は、必ず専門家に確認してもらいましょう。
▶︎4. 遺産分割の具体的な方法
4.1 現物分割、換価分割、代償分割の違いと選択
遺産をどのように分けるかには、いくつかの方法があります。代表的なのが以下の3つです。
主な分割方法と特徴
分割方法 | 内容 | メリット | デメリット |
現物分割 | 財産をそのままの形で分ける | 手間が少なく、明確 | 公平に分けづらい |
換価分割 | 財産を売却して現金で分ける | 分配が平等にしやすい | 売却手続きが必要 |
代償分割 | 特定の人が財産を取得し、他の相続人に金銭で補償 | 不動産を手元に残せる | 補償金の用意が必要 |
それぞれの方法には一長一短があるため、相続財産の種類や相続人の希望によって適切な方法を選ぶことが大切です。
具体的なケースでの選択例
実家の家を1人が相続したい場合
→そのまま取得して、他の相続人に現金で補償する「代償分割」が有効
価値が均等で分けやすい預貯金が中心の場合
→「現物分割」でスムーズに完了することが多い
骨董品や不動産など、分けにくい財産のみの場合
→「換価分割」により現金化して分ける方が公平
よくある失敗例
「現物分割でいいよね」と安易に話をまとめた
→後から「価値が不公平だった」と不満が出ることも
換価分割のつもりが、売却先がなかなか見つからず停滞
→売却先の見通しも含めて協議することが大事です
代償分割で補償金を払う約束が守られない
→支払時期や方法を協議書に明記しておくと安心です
どの方法にもリスクはありますが、財産の性質や家族の関係性に合わせて柔軟に選ぶことがスムーズな相続へのカギです。
4.2 不動産や預貯金の分割方法と注意点
遺産分割において特にトラブルが多いのが不動産と預貯金の取り扱いです。
この2つにはそれぞれ特有の注意点があります。
不動産の分割方法
不動産は価値が大きく、単純に分けづらい財産です。主な分割方法は次のとおりです。
現物分割:土地を分筆して各相続人が取得
→測量や登記費用が発生し、土地によっては分筆できないことも
共有名義にする:相続人全員で所有
→将来の売却時にトラブルになりやすいため慎重に判断
換価分割・代償分割:前述のとおり、売却や補償金で解決
特に、固定資産税の負担や維持管理費用についても事前に話し合っておくことが大切です。
預貯金の分割方法
預貯金の分割は一見簡単そうに見えますが、金融機関によって手続きが異なるため注意が必要です。
原則として、相続人全員の同意が必要
金融機関ごとに必要書類が異なる(協議書・印鑑証明など)
1つの口座でも複数の支店をまたぐ場合、複雑になることも
また、2020年の法改正により、一定額までは相続人単独で引き出しができる制度(預貯金の仮払い制度)ができましたが、上限があるため協議は依然として必要です。
実際によくあるトラブル
不動産を共有にしたが、後で売却の合意が取れず揉めた
→将来の運用も視野に入れた合意が必要です
預貯金の手続きに時間がかかり、急な支払いに間に合わなかった
→葬儀費用や税金支払いを考え、早めに対応しましょう
登記や名義変更を放置した結果、相続登記の義務化に抵触
→2024年から相続登記が義務となったため、放置は禁物です
不動産や預貯金は相続の核心。分け方の選択だけでなく、実務面の段取りも含めて慎重に進めましょう。
▶︎5. 遺産分割協議がまとまらない場合の対処法
5.1 家庭裁判所での遺産分割調停と審判
遺産分割協議は、相続人全員の合意がないと成立しません。 しかし実際には、意見が食い違って話がまとまらないケースも少なくありません。 そんなときに利用されるのが、家庭裁判所での「遺産分割調停」や「審判」です。
調停と審判の違い
手続き | 内容 | 主な特徴 |
調停 | 裁判所で第三者(調停委員)が間に入り話し合い | 双方の合意を前提に進める。柔軟な解決が可能 |
審判 | 合意が得られなかった場合、裁判所が判断を下す | 強制力あり。一方的な決定になる |
基本的にはまず「調停」からスタートし、それでもまとまらなければ「審判」に進むという流れです。
調停・審判が必要になる典型的な状況
相続分や評価額について対立している
特定の相続人が一方的に主張して話が進まない
被相続人と同居していた人が家を出たくないと主張する
家庭裁判所を通じた手続きは時間も労力もかかりますが、感情的なもつれを整理しながら、法的なルールのもとで解決を目指す手段として有効です。
5.2 調停・審判の流れと必要な手続き
家庭裁判所での調停や審判を進める際には、事前の準備と正しい流れの把握が重要です。
遺産分割調停の流れ
申立書の提出
家庭裁判所に遺産分割調停の申し立てを行う
相続人全員の戸籍や財産目録などの書類が必要
調停期日の指定と通知
裁判所から当事者に日時の連絡が来る
調停の実施
月1回ほどのペースで話し合い(1回の所要時間は約1〜2時間)
お互いに直接会うことが難しい場合は、別室調停も可能
調停成立または不成立
合意できれば「調停調書」が作成される
合意できなければ自動的に審判へ移行
審判の流れ
書面と証拠に基づいて裁判官が判断
一般的に1回〜数回の審理で決着
審判内容に不服がある場合は抗告が可能
手続きに必要な主な書類
被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
相続人全員の戸籍・住民票・印鑑証明書
財産目録
不動産の登記事項証明書、預金残高証明書など
これらの書類を揃えるのに1〜2週間かかることもありますので、早めの準備が重要です。
よくある失敗と注意点
調停を避けて無理に協議を続け、さらに関係が悪化
→早めに第三者を介入させることで、冷静な話し合いがしやすくなります
必要な資料が足りず、調停が延期に
→提出書類を事前にリストアップし、確認する習慣をつけましょう
調停が決裂し、長期化するケースも
→最終的には審判も視野に入れ、柔軟に対応する姿勢が大切です
家庭裁判所の調停・審判は「最終手段」ではなく、感情の対立を整理し、法的に公正な形で解決するための「建設的な手段」です。
▶︎6. まとめ:遺産分割協議のスムーズな進め方とポイント
遺産分割協議は、相続手続きの中でも最も感情的な対立が起きやすいステップです。 財産の内容も相続人の立場もそれぞれ違うため、話し合いがスムーズに進まないことも珍しくありません。
しかし、基本を押さえ、順を追って準備を進めることで、トラブルを未然に防ぐことができます。
スムーズに進めるための5つのポイント
以下の点を意識するだけで、協議はぐっと進めやすくなります。
相続人を確実に確定する(戸籍の取り寄せを丁寧に)
遺産を正確に把握し、財産目録を作成する
遺言書がある場合は、効力と内容を慎重に確認する
協議は必ず全員の同意を得て進める
協議内容は書面に残し、署名・押印を行う
よくあるつまずきポイントと対策まとめ
よくある問題 | 解決のヒント |
相続人の一部が不参加だった | 不在者財産管理人・成年後見制度などを活用 |
協議がまとまらない | 家庭裁判所での調停や審判を視野に入れる |
不動産や預貯金の手続きが複雑 | 行政書士など専門家に相談して効率化する |
専門家に相談するメリット
協議の進め方に不安がある方は、行政書士や司法書士などの専門家に相談するのが安心です。 書類作成のミスや手続きの遅れを防ぐだけでなく、相続人間の調整役としても頼りになります。
実際、相続手続きを専門家に任せることで、
手続きの完了までにかかる時間が半分以下になった
書類の不備によるやり直しがゼロに
相続人同士の対立が穏やかに収まった
というケースも多くあります。
遺産分割協議は、正しい知識と段取りで「争族」から「円満な相続」へと変えることができます。 焦らず丁寧に、必要に応じて専門家の力を借りながら、納得できるかたちで進めていきましょう。
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